ツキに見放された世界経済

■回復見えると「事件」起こる

 リーマン・ショックから3年が過ぎ、世界経済に再び暗雲が広がっている。国際通貨基金IMF)が9月に発表した世界経済見通しは、先進国の成長鈍化、財政と金融の不確実性が著しく増幅したことで、4月に比べて経済回復が著しく不透明になっていると指摘している。ここ数年の先進国経済はどうも、「ツキがない」ように思えてしかたないが、どうだろうか。

 ◆薬と副作用

 2008年9月、米政府がリーマン・ブラザーズ公的資金を投入せずに破綻させたことで、世界は同時不況に突入した。リーマン破綻の引き金となったのは米国の住宅バブル崩壊で、金融工学が生んだ低所得者向け高金利型住宅ローンであるサブプライムローン不良債権化だ。

 世界は2種類の薬を服用した。一つは巨大な財政出動による景気刺激策だ。09年だけで500兆円の公的資金が投じられた。もう一つは金融緩和だ。各国の中央銀行金利引き下げや国債買い取りで資金供給を増やす量的緩和を競った。

 ところが、米国が低迷から抜け出し切る前に、欧州の金融危機が表面化した。東日本大震災も日本経済を襲った。

 同時に、世界経済では2種類の薬の副作用も進行し始めた。巨額の公的資金をつぎ込んだことで、各国政府の借金が急速に膨らんだ。追加景気刺激策の余裕はなくなった。

 大規模な金融緩和も、新興国にインフレをもたらし、成長力をそいだ。インフレに直面した新興国は金融引き締めに反転。その結果、新興国経済というリーマン・ショック後の世界経済のエンジンの出力が低下した。

 ◆袋小路の米経済

 米国は2度の量的緩和を実施したが、泥沼化した住宅ローン問題から抜け出せずにいる。失業率も9%台で高止まりしたままだ。家計が抱える借金の7割は住宅ローンであり、雇用が改善しないなかで家計の可処分所得に対する借金の比率は114%と歴史的な過剰債務状態にある。当然、米国の国内総生産(GDP)の7割を担う個人消費は振るわず、市民の間で先行き不安が高まっている。

 オバマ政権は追加の景気刺激策を求め苦しんでいる。何をしても労働環境が改善しない現実に、米連邦準備制度理事会FRB)のバーナンキ議長は議会で「金融政策は米経済の問題解決の万能薬ではない」と証言し、無力感をにじませた。米国の政府債務はGDP比101%に達しようとしており、財政出動の余力は少ない。オバマ大統領の34兆円の大型雇用対策も、共和党との対立が深く、実現のメドは立っていない。

 追い打ちをかけたのが欧州の金融危機だ。09年10月、ギリシャ財政赤字が公表数字の3倍以上あったことが発覚。ユーロ圏が同年7〜9月期に1年半ぶりにプラス成長に転じた直後の、悪夢のような出来事だ。バンク・オブ・アメリカ不良債権が急増し、欧州以外にも影響が出始めている。

 ◆欧州危機終わらず

 国債格下げで国債発行が困難な状況に陥ったギリシャ救済のため、ユーロ加盟国、欧州中央銀行IMFは、ギリシャ政府による財政再建を条件に12兆円超の支援枠を設定した。だが公務員や福祉の削減は進まず、脱税は横行し、財政再建は遅々として進まない。

 そんな中、銀行救済に公的資金をつぎ込んだアイルランドが10年に財政危機に陥り、欧州連合(EU)とIMFに緊急融資を要請した。財政赤字の多いイタリア、スペイン、ポルトガルなどの国債償還にも不安が伝染して格下げが続出し、資金調達コストは高まっている。

 ギリシャ国債を多く持つフランス、ドイツ、英国や金融機関の信用不安が高まるなか、フランス・ベルギー系金融機関デクシアが解体されるに至り、欧州の対策は待ったなしの状態となった。混乱収束のため、欧州金融安定化基金(EFSF)の拡充や金融機関の資本拡充などを目指し、G20財務相中央銀行総裁会議、EU首脳会議など一連の国際会議が協議を進める。銀行を救済できても、各国の財政赤字は拡大の一途だ。危機は終わらない。

 欧米の混乱度合いは、外国為替市場の円相場で分かる。東日本大震災で大打撃を受けた日本がマシに見えるほどだ。しかし、海外に世界最大の純資産を保有し、ほぼすべての国債を国内消化できているとはいえ、国と地方を合わせた政府の借金残高はGDPの2倍と先進国で突出した状況だ。高齢化が進み、人口も減少するなど高成長は望めない時代に入ってもいる。暗い話ばかりで申し訳ないが、世界経済はツキに見放されてしまったのだろうか。