銀行が融資出来ない理由

融資できない四つの理由
最近テレビの経済討論番組などで、この大不況の原因について、学者も評論家も口をそろえて同じような発言をしています。「資金需要が湧いて来ないのが原因です」「企業は債務返済に熱心で、設備投資意欲が戻ってこない」「借り手がいない」つまり、企業が金を借りに来ない、事業意欲がないと言うのです。まるで、不況は企業の責任だ、銀行や政府の責任ではない、と言わんばかりです。これはとんでもない間違いです。この大不況の重大な責任は、何度も言うように政府の金融政策の失敗にあるのです。現在、中小零細企業は資金繰り難で壊滅状態にあります。彼らは、橋本政権当時の「貸し渋り騒動」を経て「引っぱがし回収」の現状に至り、会社の運転資金に窮しています。だから、資金需要は山ほどあります。富士山の何百倍もあります。砂漠で水を求めるが如きの中小零細企業に、金融機関が貸さないだけなのです。なぜ銀行は、金を貸さないのか、あるいは貸せないのか。その理由には「表の理由」が二つ、「裏の理由」が二つあります。表の理由の一つは、担保の不足があります。銀行の融資は「不動産担保至上主義」ですから、「資産デフレ」下では、融資に見合う不動産担保が圧倒的に足らないのです。不良債権償却せよとの大号令の下、19 年以上続く不動産の叩き売り運動の結果が、日本列島担保割れになってしまいました。ですから、「追加融資」を頼みに来る企業の経営者に、銀行は「追加担保」を要求します。でも、追加できる担保を持つ企業など、もはや日本には皆無の状況です。もう一つの表の理由は、「金融再生法」の「引当金」問題です。金融再生法と引当金については先にも述べましたが、例えば、「債務超過」が3年続いた企業は「破たん懸念先」になり、銀行は70 %の貸倒れ引当金を積まなければなりません。「債務超過」と言っても、資本金1000万円くらいの中小零細企業は、すぐ債務超過になってしまいます。今の世の中、黒字の企業は3割以下なのです。赤字会社は7割以上です。では、3割は本当に黒字なのかと言うと、そうではありません。決算書を粉飾して黒字にしておかないと、銀行融資は受けられません。また、建築業者は公共事業に入札できません。ですから、この大不況下では、本当の黒字会社は全体の1割ぐらいでしょう。また、引当金を70 %積んでまで貸すのだったら、貸さない方が良いではないか、と銀行は判断します。銀行経営者としては当然の判断でしょう。政府は矛盾政策をとりながら、「貸し渋りはけしからん」と善人面しているのです。この国の政治家・官僚に、整合性のある論理は期待できません。例えば、駅前の飲食店が、この不況で元金の開店資金は払えなくなっても、利息はチャンと払っている。約束の年限に全額の返済は完了しそうもないが、なんとかやっている。そういうところまで、「元金が払えない不良債権だから、お取り潰しダ」というのは間違っているのです。この飲食店が従業員やアルバイトを雇っていれば、「雇用」にも貢献していることになります。雇用を維持するために、お店の存続を最優先しなければなりません。中小零細企業者には、大企業のような「債権放棄」は全くありません。お取り潰し優先政策ですから、失業率が激増するのです。経営者は、自分の給料はドンドン下げて、場合によっては無給にするどころか、自分の預貯金を会社に注ぎ込んで資金繰りをつけているのが実情です。極限まで生活を切りつめて、お店なり会社を続ける経営者には、「公的資金」は一銭も投入されません。「回収専一」の金融機関にのみ、膨大な「公的資金」が投入されます。こうして維持される「金融システム」とは、誰の為なのでしょう。また、「破たん懸念先」までいかなくても、赤字の企業は「要注意先」です。「金融再生法」では、15%の引当金が必要です。バブル崩壊後、日本の企業はどこもかしこも赤字転落で、銀行の融資先は激減してしまいました。赤字企業は全国平均で75 %、最も多いのは神奈川県で85 %、最も少ないのは秋田県で55 %だそうです。ですから、銀行はいま、「貸したくても貸せません」。そうさせたのが、「金融再生法」なのです。この「法」ができてから、金融は再生できなくなったのです。金融庁は現在、不良債権最終処理の「特別検査」などで、「処理が進まないのは、銀行の査定が甘いからだ、もっと厳しくやれ」とハッパをかけています。金融庁は銀行の憲兵隊となってしまいました。しかし、銀行側からすれば、貸し出し先企業を「要管理先」とか「破たん懸念先」と認定すれば、「引当金」を大幅につまねばなりません。そうなると、デッドロックする資金が激増します。信金・信組も含めて、銀行は「法」と「実務」の狭間で苦悩を強いられています。しかも、貸し出しを解消した方が、銀行の「自己資本比率」は上昇するのです。ですから銀行も、自衛手段として、融資をしないで貸出金の回収に走らざるをえなくなるのです。このことは、弱い企業には貸すな、つぶせ、ということに他なりません。今や銀行には社会正義も、復活の道もありません。「法」が、銀行の「取引先を大切にするシステム」に改正されない限り、この国の金融システムは復活できません。